東日本大震災被災地応援プロジェクト!
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企業による復興支援【「生きがい」仕事づくり(2)】

会社名:株式会社福市 http://www.love-sense.jp/
プロジェクト名:東北支援プロジェクトEAST LOOP http://www.east-loop.jp/
仕事つくりの内容: ハートのブローチ、クリスマスオーナメントなどの商品作り


ハートのブローチは5色展開で、1つ 840円(税込)で販売中

今回の取材先は、フェアトレードを核とした事業を行う株式会社福市。フェアトレードは発展途上国の製品を適正な価格で買い取ることで厳しい環境におかれている人たちをサポートする活動だ。2006年からフェアトレードに取り組んできた福市は、これまでの経験やノウハウを活かし、宮城県・岩手県の被災者のための手仕事つくりを始めている。自身も阪神淡路大震災を経験している代表取締役の高津玉枝さんの手仕事つくりへの想いや、これまでフェアトレードで培った経験をどのようにプロジェクトに活かされているのか伺った。

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ダイバーシティ研究所(以下、D):被災者の方への手仕事つくりが必要だと思われたきっかけを教えてください

― 私自身が阪神淡路大震災を経験しているため、311後は、1995年当時のフラッシュバックが起きることもあり、心が沈みそうになりました。福市がこれまでに扱ったフェアトレード商品の中には、インドネシア・ジャワ島地震の被災者が苦境から立ち上ることを応援する商品もあったので、発展途上国での厳しい環境、阪神淡路大震災の体験が今回の状況と重なり、「自分にできることを何かしないといけない」という思いに至りました。震災からの復興は簡単なものではありません。被災者の方々の心のケア、雇用の問題など、これから起こる課題を予測していました。

以前、国際協力団体の支援が多く入っているネパールで「自分たちに施しはいらない。自分たちは仕事をし、自分たちの手で地域を作っていきたい」と言われたことがあります。人が尊厳を持って自立して生きていくためには、何らかの仕事が必要であるとフェアトレードの現場で感じてきました。誰かから必要とされ、感謝され、それらを実感できることが生きる力につながるのだと思います。そのためにも被災された方には自分が地域・社会に役に立っているという感覚を持つための仕事つくりが必要だと考えました。

高津玉枝さん

D:プロジェクトを進める上で、地元をよく知る支援団体と連携することは重要な点だと思いますが、高津さんはどのように地域の支援団体とネットワークを作られたのでしょうか

― 私たちは海外で活動してきましたし、東北に知り合いもいなかったので、初めは手探りの状態でした。偶然にも、お付き合いのあった企業を通じて、NPO法人「遠野山・里・暮らしネットワーク(以下、山里ネット)」が物資支援を必要としていることを知りました。物資を届けるため、福市の取引先企業に支援を依頼し、企業と山里ネットとをコーディネートしたことがきっかけで、山里ネットスタッフの方と連絡を取るようになりました。

物資支援が一段落した後、スタッフの方に「被災地では雇用支援が必要になるのでぜひ話を聞いてほしい」と連絡し、4月中旬に初めて被災地を訪問しました。山里ネットのスタッフや被災された方のお話も聞きました。しかし、そのときは「今はまだ食べることだけでも精一杯の状態。仕事のことは、もう少し先にならないと考えられない」という反応が大半でした。宮城県にも行き、「被災者とNPOをつないで支える合同プロジェクト(つなプロ)」をはじめとして、被災地で活動する人々を訪ねて話を聞きながら、ネットワークを作ることができました。ただ、被災地では瓦礫もまだ残っている状況でしたし、仕事つくりの必要性をすぐに理解していただく段階ではなく、そのときはプロジェクトを形にできないまま帰路につきました。

しかし、高津さん自身の中では、この先に起こる状況が見えていたという。「必ず仕事が必要になる時期がやってくる」、そう信じていた高津さんは5月に再度被災地を訪問。そのとき、山里ネットの代表から、「避難所での生活は何もすることがない状態。瓦礫を見るだけの毎日の中、つらい思いをしている人が多い。被災した人たちが取り組める活動を提供することが必要だ」と言われ、プロジェクトが進み出した。

D:手仕事の中で“編み物”を選ばれた理由を教えてください

― ミシン・アイロン・針すべてが流されてしまった被災地でできることは何か、と考えました。場所を選ばずに作業ができるもの、各々のペースで進められるもの、失敗してもロスがでないものとして選んだのが編み物でした。かぎ針編みであれば作成する場所を問わず、比較的失敗が少なく作ることができます。

遠野市を拠点に活動していた山里ネットは、被災された方との信頼関係も構築されており、まずは遠野に避難している被災者の参加を募ることにしました。山里ネットには、遠野で開催されたフリーマーケットでチラシを配布していただき、また、協力を申し出てくださった手芸店でも広報しました。また、6月にはその手芸店にて参加希望者への講習会を行っていただきました。最初は20人ほどの方が集まりスタートしました。現在では100人近い人が参加しています。仮設住宅の中で、既に手仕事をしている方が、知り合いの方にこの仕事を紹介し、編み方をお互いに教え合うこともあるようです。仕事つくりがコミュニティの活性化にもつながっています。宮城県東松島市の仮設住宅では、お母さん方のネットワークで「この仕事やってみない?」と周囲に声をかけてくださり、参加希望者が増えました。

現在はハート型のブローチだけでなく、クリスマス用のオーナメントとして靴下も作っていますが、これは「ブローチは編目が細かくて、編むのが大変」という年配の方の声を受けて始まったものです。

 
クリスマスオーナメントの靴下。 靴下は3色展開。
ブローチ同様、裏面には生産者のハンドルネームが書かれている。

D:参加者は、どのような想いでこのプロジェクトに携わっているのでしょうか

― 仕事を希望される方には、福市はお客様に寄付として購入していただくのではなく、一般に販売できる「製品」として作っていることをお伝えしています。オンラインストアだけでなく、高島屋や生活協同組合(生協)などとの取引も開始しましたので、「これは手を抜けない」「買った人が喜んでもらえる製品を作らないといけない」と真剣な想いで作っていただいています。また、仕事を始めたことで「元気になった」「生きがいなのよ」と言う参加者もいます。311以降、震災のことを絶対口にしなかった方が、ぽつりと体験を話してくれることもありました。参加者の皆さんから、生きがいを持つことで前に進んでいこうとしているのが伝わってきます。

先日、イタリアでの発売も決まりました。「皆さん、とうとう世界デビューですよ」とお話したら、大変喜んでいただきました。販路が広がるということは、単に仕事が増えるということではなく、日本、世界の人々が被災者のことを忘れていないというメッセージにもなるのです。

D:店舗で販売されるスタッフや購入者の反応はいかがでしたか

― こちらからお願いしたわけではないのですが、横浜の販売店舗では、スタッフの方が自らハートのブローチを付けて店頭に立ってくださいました。これは、商品の意義をスタッフの方が理解してくださったからだと思います。

EAST LOOP商品の裏側には、作成場所(石巻・陸前高田など)と生産者のハンドルネームを記載しています。先日、大阪の生協を通じ、購入者から生産者宛てに150通以上のメッセージが届きました。一人ひとりに宛てた購入者からのメッセージを生協の担当者とともにお届けしたところ、受け取った方は大変喜んでくださり、「みんなの前で読んだら涙が出そうだから、あとで一人で読むわ」と言われる人もいたくらいです。このプロジェクトは多くの方に関心を持っていただき、10月・11月には購入希望数に対して、生産量が追いつかない事態にもなりました。

EAST LOOPの商品は、税金を除いた商品代金の50%が生産者の手元に届く仕組みだ。12月9日現在、ハートのブローチは8,000個生産し、500万円を生産者に届けることができた。

D:今後はどのような展開をお考えでしょうか

― 現在、仕事に就いている方の多くが被災して仕事を失った方です。復興が進めば、元の仕事に戻る方もいらっしゃるでしょう。私たちは、このプロジェクのゴールを1年後と捉えています。少し延長はあるかもしれませんが、もしこの仕事を通じて、新たな仕事つくりに関心を持つ人が現れれば、コミュニティビジネスとして、地域の方が自分たちで運営していけるよう応援したいと思います。コミュニティの中から「私たちはこんなことをやってみたい」と、自発的に出てきた取り組みであれば成功しやすいのではないでしょうか。今では、100人程の生産者の方とお付き合いがありますので、今後、福市はコーディネーターとして、他の企業や被災者の方をもっと近い関係にするお手伝いをしたいと思います。


専門学校の学園祭での一コマ。EAST LOOP商品は若い人の関心も高い

 

(取材後記)
高津さんは、国際協力の経験から「人が尊厳を持って自立して生きていくためには仕事つくりが不可欠」という強い信念を持ち、震災後は被災者の心の支えとしての仕事つくりを準備されてきた。それが実を結び、今では、EAST LOOPの仕事を通じて生きる気力を取り戻したり、心を癒されている人々がいる。阪神大震災の経験を受け、仮設住宅で暮らす被災者の方の孤独死を防ぐためにも、生きがい仕事つくりが重要であると聞く機会が多い。もう間もなく震災から一年が経つが、EAST LOOPのような心の支えとなる仕事つくりが今後ますます必要となってくるのではないかと感じた。(須磨珠樹)

取材日:2011年12月9日     
文責:一般財団法人ダイバーシティ研究所 


NPO法人遠野山・里・暮らしネットワーク
http://www.tonotv.com/members/yamasatonet/
被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト(つなプロ)
http://www.hnpo.comsapo.net/portal/tsuna-pro/portal.index


(印刷用)