東日本大震災被災地応援プロジェクト!
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企業による復興支援【寄付付き商品事例(3)】

会社名:SC. Cosmetics(エスシーコスメティクス)株式会社 http://www.steamcream.co.jp/news/
商品名:スチームクリーム「LOVE FOR JAPAN」 http://www.steamcream.co.jp/gallery/loveforjapan.asp

創業から5年、従業員約20人の「SC. Cosmetics 」は、「スチームクリーム」という商品名の全身用保湿クリームを販売している会社だ。商品はこれ一つだが、パッケージのデザインは豊富。ポップなものから、クラシカルなものまで、何種類もあるのが特徴だ。そんなSC. Cosmetics にとって2011年は、初めてチャリティ活動に踏み出した年だった。現在販売中の東日本大震災復興支援のためのデザイン缶「LOVE FOR JAPAN」の全ての売上(消費税除く)は、石巻で託児所をつくるプロジェクトの支援金になる。チャリティのしくみを社内に構築しながらの一年を、ディレクターの田上静香さんに聞いた。

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SC. Cosmetics がチャリティに動くきかっけは、東日本大震災だった。交通機関の混乱などで自宅に帰れず、スタッフは会社で不安な夜を過ごした。「翌日から報道で被災地の状況を知るにつれ、どこからともなく、会社として何かできないか、という話しになったのです」

数日後、同じフロアに事務所をもつ「株式会社ラッシュジャパン(LUSH)」から、保湿クリームのニーズが被災地や避難所にあると聞き、「新しい公共をつくる市民キャビネット災害支援部会」と「NPO法人ポラリスプロジェクトジャパン」にスチームクリームを送った。会社として物資の寄付をしたのは、これが始めてだった。

「実は、震災直後、お客様から、スチームクリームのカラフルな缶や香りには癒しの効果があると思うので、被災者に送ってはどうかというメールを何通かいただいていまして。私自身も、お客様が感じたように『ぜひそうしたい!』と思っていたのです。社長も被災地支援に前向きでしたから、すぐに実行しました」

この時点では、9月に始まることになる「LOVE FOR JAPAN PROJECT」の詳細は決まっていなかったが、「LOVE FOR JAPAN」とプリントされたチャリティ用のパッケージデザインは、デザイナーの無償協力もあり、3月には完成していたそうだ。

「うちの商品は、スチームクリームだけです。缶のデザインは豊富ですが、中身は同じ。ですから、チャリティをするにしても、スチームクリームを使った内容になることはわかっていたので、缶のデザインが先行しても矛盾はなかったのです」

会社にとっては初めてのチャリティ活動ということもあり、進め方については、「臆病にはなりたくない。でも失敗もしたくない。かつ、身の丈にあった効果的なやり方」を模索した。しかし、時間だけが過ぎてしまい、気がつけば震災から3ヶ月が経ち、6月になっていた。

みんなの気持ちがどんな状態にあるのか、どんな取組みがSC. Cosmetics らしいのか、社員全員にメールで聞いてみたのです。また、担当者だけが勝手に支援活動を進めている、と思われるようなやり方にはしたくなかったので、全員にヒアリングすることは重要でした」と、田上さんは振り返る。

社員からの返信メールには、「震災を風化させてはいけない」といった熱い思いが綴られていた。「私たちが理想とするチャリティは何か」を考えた。時間のかかる作業だった。最終的には、チャリティ缶の売上を全額寄付するかたちで『LOVE FOR JAPAN PROJECT』を、オンラインストア(ネット販売限定)で、9月11日にスタートした。

しかし、この時点では寄付先は決まっていなかった。そんな矢先、支援先の候補として気になっていた宮城県石巻市を拠点に活動する「特定非営利活動法人フェアトレード東北」の代表・布施龍一さんから、石巻に託児所をつくる計画を聞いた。10月のことだった。

震災で、現地の託児所の数は震災前の半数ほどになった。子どもを預ける先がないまま親は仕事を探し、自分の時間を持つ余裕もなく、ストレスを抱えている。託児所ができれば、保育士の雇用がうまれ、育児について相談する場所が持てることで親も楽になるという。

11月、田上さんはフェアトレード東北の事務所を訪問した。石巻周辺の被災地を案内してくれたのは、震災で息子の妻を亡くした50代の男性だった。息子とともに孫を育てていなかければならない、父子家庭の苦境を身近に聞いた。

本社に戻って、みんなで話し合った。直接被災地に届き、長期的、継続的に関われ、なおかつ、将来につながる支援がしたい。託児所をつくる取組みは、理想的な支援先だった。石巻の警察をはじめとする様々な組織とパイプをもつフェアトレード東北は、世間から注目されない重要な被災地のニーズをおさえ、そこに支援の力を向けていた。そんな団体の姿勢にも共感し、「被災地に託児所を」という思いは、次第に社員共有の思いになり、寄付先にするに至ったという。

そして、「LOVE FOR JAPAN PROJECT」が開始してから3ヶ月後の12月。売上金1,187,143円を全額、フェアトレード東北に寄付した。

チャリティ缶の売上は毎月安定しているという。季節を問わず、顔や体、髪にも使える保湿クリームは、子どもから大人まで使う人を選ばない。とはいっても、一缶を使い切るには1〜2ヶ月はかかるはず。安定した売上げは驚きであり、励みにもなった。「購入者の9割は、20〜30代の女性ですが、もしかしたらご家族みなさんでお使いいただいたり、友人へのプレゼントとして購入されているのかもしれないですね」

現在のところ、チャリティ缶はオンラインストアのみでの販売だが、その理由は、まずは販売個数などが把握しやすい環境で始めたかったからだという。「今後、活動を継続していくためにも、焦らず、自分たちができることを確認しながらやっていこうと考えています」

一方、店頭でも購入したいという声が寄せられている。
「現在、特定の催事場で販売を検討しています。これはアイディアの一つですが、チャリティ缶だけで一定期間店舗をジャックするなど、店舗からも情報発信ができれば、より多くの方に震災のことを思い出してもらうきかっけになるのでは、と考えています」

「LOVE FOR JAPAN PROJECT」は、チャリティ缶の売上金額のすべて(消費税除く)を支援にまわすこと、必要とされている被災地にスチームクリームを送ることに加えて、正確な情報発信をすることも支援の一つに位置づけている。「正確な情報発信」と、あえて表現した理由について聞いてみた。

「正確な情報がなければ、本当に必要な支援はできないからです。東京で見聞きするニュースと、実際に被災地で見た現実とのギャップ。事実が歪められて報道されていることもあります。このことから、できるだけ私たちも現地に赴き、正確な情報発信をしたいのです。このことが、チャリティ缶を購入してくださった方への報告と、震災を風化させないことにつながると考えています」

石巻の託児所の開園は3月下旬に予定されているという。こうした現地の情報は、SC. Cosmetics のホームページを使って発信していくそうだ。

「託児所の運営が軌道に乗るまでは支援を続ける」と田上さん。今回、複数の支援先をチャリティの対象に選ばなかった理由については、「複数にしなかったというより、“フェアトレード東北の託児所プロジェクト” に関わりたかったからなのです」とのこと。一緒に育てていきたいという気持ちが「LOVE FOR JAPAN PROJECT」の原動力になっている。

被災地の復興には時間がかかる。SC. Cosmetics はチャリティ活動に終わりを設けず、支援を続けていくそうだ。


「LOVE FOR JAPAN PROJECT」に関わるスタッフのみなさん

 

(取材後記)
「LOVE FOR JAPAN PROJECT」のサイトに書かれている3つの活動内容の一つは「正確な情報発信」だ。単に「情報発信」とせず、あえて「正確な・・・」としたのは、正確な情報がなければ、本当に必要な支援ができないからだという。ここに、被災地のニーズに本気で応えたいというSC. Cosmeticsの姿勢が見える。また、現地の団体の報告(ブログ等)を利用するだけでなく、企業自らが、情報発信にまで取り組むのは珍しい。その意味もあって、「正確な情報発信」には注目している。(奥田みのり)

SC. Cosmeticsは、東日本大震災を機に、会社として初めてのチャリティ活動を始めたという。チャリティの担当者だけでなく、社員全員の意思を確認し、みんなで復興支援への思いを共有した後、活動を開始された。また、被災地訪問を通じて被災地の現況を聞き、被災地支援団体の活動姿勢や支援内容を丁寧に把握したうえで支援先を決めた。その結果、自分たちがぜひ関わっていきたいと思えるプロジェクトに出会うことができた。このプロセスは、まだチャリティに取り組んだことがなく、NPOにどうアプローチしていけばよいか悩んでいる企業の参考になるのではないだろうか。(須磨珠樹)

取材日:2012年1月26日
文責:一般財団法人ダイバーシティ研究所

*特定非営利活動法人フェアトレード東北
http://ameblo.jp/fairtrade-t/

*新しい公共をつくる市民キャビネット
http://shimin-cabinet.net/

*NPO法人ポラリスプロジェクト ジャパン
http://www.polarisproject.jp/


(印刷用)